アメリカ

ワシントンD.C.1人旅(後編)

usako0606

制度と知が集まる首都

前編では、記念碑や歴史の現場を歩きながら、アメリカという国が「何を記憶し続けようとしているのか」を感じた。

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ワシントンD.C.1人旅(前編)
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後編では、その記憶の上に築かれている制度と意思決定の現場を巡りたい。ワシントンD.C.は、過去を語る街であると同時に、今この瞬間も、国家と世界の方向を決め続けている場所でもある。

U.S. Capitol:政治が行われる中枢

US Capitol (連邦議会堂)は、上院・下院の両議会が置かれるアメリカ立法府の中心だ。
ドーム型の屋根と左右対称の構造は、写真やニュースで何度も見てきたはずの建物だが、実際に目の前に立つと、その規模と象徴性に圧倒される。

ここでは、国家予算、外交政策、社会制度など、あらゆる法律が審議されている。アメリカの方向性は、まさにこの建物の中で決まっている。

連邦議会堂は事前に予約する必要あるが、一般市民や観光客が内部を見学できるツアーに参加すすることができる。

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U.S. Capitol Visitor Center
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ツアーに参加すると、まずは巨大なシアターに案内され、連邦議会堂の成り立ちやその理念について短いビデオを鑑賞することになる。その後に実際に議事堂の中に入る流れになる。

冒頭のビデオでも繰り返し述べられていたのが、アメリカ建国時のE Pluribus Unum(Out of many, one)というスローガンである。これは議事堂の頂にも刻まれていて、この元々の意味は、異なる利益や文化などをもつ13の植民地(現在の州)が1つの国家(=アメリカ合衆国)として結束するという建国思想を表していたとされる。

「多くの中から1つへ」というその言葉は、意見も背景も異なる人々が、制度を通じて一つの決定を作り上げていくという、この国の民主主義そのものを象徴しているようだし、現代における人種、宗教、文化、価値観といった多くの異なる要素を前提にして1つの国家として取りまとめるという思考に繋がっていると思う。

National Archives Museum:民主主義の歴史

National Archives Museumにおける目玉は下記3点の国家の根幹をなすアメリカ建国三大文書である(下記それぞれの文書をクリックして概要を表示)。

アメリカ独立宣言(Declaration of Independence of the United States)

これはアメリカ合衆国が、1776年に発表された「イギリスから独立する」と世界に宣言した文書。ここでは「すべての人は平等に生まれ、権利を持つ」ことが記されている。

アメリカ合衆国憲法(Constitution of the United States)

アメリカ合衆国のルールを決めた文書で、1787年に制定された。大統領・議会・裁判所の役割を規定し、権力の集中を防ぐ機能を整えている。

権利章典(United States Bills of Rights)

国が国民の自由を侵さないように保護する文書で、1791年に憲法の修正1-10条が成立した。国民にとって「自由の盾」として、言論の自由・宗教の自由などを保障し、政府の暴走を防ぐ役割を果たしている。

ガラスケースの中に、厳重に展示されている重要文書はインクが色褪せ、もはや内容を正確に読み取ることはできないが、その内容が今もこの国の法律と制度の基礎になっている。

本物を目の前にした時には、鳥肌がたった。

また、Archives Museumにはマグナカルタの原本も大切に展示されている。イギリスに保管されているものとは書かれた年が異なるが、すべての権利法典の根幹にはマグナカルタがあることが説明されている。

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National Archives Museum Official Webpage
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Library of Congress:政策の裏側にある膨大な知

連邦議会堂のすぐ隣に位置するLibrary of Congressは、世界最大級の蔵書数を誇る図書館だ。単なる公共図書館ではなく、議員や政策スタッフの調査活動を支えるための機関でもある。

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Library of Congress Official Webpage
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また、ここではジョージ・ワシントンの蔵書を360度で見ることができる。説明書きによると、ワシントンは蔵書家で、このLibraryにいくつか寄付したらしい。

また、興味深いことに、私が訪れたタイミングで、「President & King(大統領と国王)」と題した特別展示が行われていた。そこには2人のジョージ、すなわちアメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンと、大英帝国国王ジョージ3世が並んでいた。

同じ18世紀後半、同じ大西洋世界の中で生きていた2人だが、1人は「共和国の象徴」となり、もう1人は「旧宗主国の象徴」として歴史に刻まれることになった。

ジョージ・ワシントンは、独立戦争を率いた軍人であり、勝利後、自ら王になることもできた立場にあったが、彼はあえて権力を手放し、大統領という「任期付きの公職」を選んだ。一方、ジョージ3世は、当時のイギリス帝国を率いる国王で、植民地にとって彼は「支配者」であり、課税や統治を通じて強い影響力を持っていた存在だ。

展示は、両者の肖像や書簡、当時の資料を並べながら、同時代に存在していた二つの政治体制と価値観の分岐点を静かに浮かび上がらせていた。

Smithsonian National Museum of Natural History

スミソニアンは、19世紀に設立されたアメリカ最大の国立博物館ネットワークで、ほとんどの施設が入館無料で一般公開されている。今回私が訪れた自然史博物館も、気軽に立ち寄れる雰囲気だった。

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Smithsonian Museums Official Webpage
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「知は一部の専門家のものではなく、市民全体のもの」。そんな思想が徹底されているようだ。

重厚な外観とは裏腹に、中に入るととても開放的で、家族連れ、学生、観光客、研究者が自然に混ざり合っている。誰でも楽しめる展示となっていて、非常に居心地の良い空間だった。

政策と制度を巡る旅の途中で、この博物館に立ち寄ったことは、とても良いバランスだったと思う。

なぜ開発銀行は首都にあるのか

今回訪れたのが、世界銀行グループの一員であるIFC(International Finance Corporation 国際金融公社)と、中南米向け開発を担うIDB(Inter-American Development Bank 米州開発銀行)の本部だ。

どちらも金融機関でありながら、ニューヨークのような金融街ではなく、政府機関が集まる首都の中心に建っている。

それは、これらの機関が単なる投資家ではなく、加盟国政府の政策と密接に連動して資金を動かす存在だからだ。

開発金融では、市場の判断だけでなく、外交、国際合意、政策目標が常に影響してくる。

その現実が、立地そのものに表れているように感じた。

首都という場所の意味

前編で見たワシントンは、過去を語り続ける街だった。他方、後編で見たワシントンは、今この瞬間も制度が動き続けている街だった。

歴史と記念碑だけでは国家は動かない。その裏側で、膨大な文書が管理され、調査が行われ、政策が設計され、資金が動いている。

静かな街並みの中で、実はとても多くの意思決定が、日々積み重なっている。

今回、首都・ワシントンD.C.を訪れ、その現場を少しだけ垣間見た気がした。

次回:眠らない都市、ニューヨークへ

次に向かうニューヨークでは、まったく違うエネルギーとリズムの中で、市場と多様性がどう都市を形作っているのかを見ることになる。

静かな首都から、眠らない都市へ。

次回は、ニューヨーク前編:都市とエネルギー

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うさこ
うさこ
七転八倒するMBA駐妻
メガバンクと国際金融機関でファイナンス・オフィサーに従事した後、夫の英国赴任に帯同。
キャリアアップへの闘志を燃やし、トップビジネススクール進学に向けて大奮闘。 2024年秋からImperial College Business Schoolへ進学。 2025年夏に無事修了。
最近は何気におしゃれに気を使い始めた30代の駐妻。
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